うちのお店にくる人のほとんどは、下調べばっちりで何を買うのかも事前にしっかり決めたうえで登場する。人によっては一目散に目的のものを買い終え、他のものには目もくれず颯爽と去っていくことも珍しくない。お店としては楽ちんなことこの上ない。これは不思議なのだが、欲しい仮面を定めてきたが、いざ店頭に来たら別の仮面に出会ってしまった、ということがけっこうある。その出会いは一目ぼれなので、どう考えても一期一会だ。こういう場合に限ってはまず買った方がいいと私は思っている。本当に不思議なことに、そのタイミングを逃すと大抵、すぐに別の方にもらわれてしまうからだ。
2020年の中ごろ、ホームページに「重要なお知らせ」を掲載した。
仮面屋おもての営業時間はおおむね土曜・日曜の12:00-19:00(※現在は13:00-18:00)ですが、店主がオープン直後にお昼ごはんを食べに出かけるほか、営業時間の半分ほどは周辺を散歩していて不在です。そのため、入店前に店主の居所を探していただく必要があります。主に徒歩で移動しますので、それほど遠くにいることはあまりありません。周辺の店舗オーナーたちにお尋ねすることでおおむね所在がつかめます。
散歩をしていて、ふらっと仮面屋に立ち寄るというのは想像しにくい。実際にそういう人はまれだ。私のお店は、最寄りの駅から歩いて10分はかかる商店街の一角にある。この「下町人情キラキラ橘商店街」は、その名の通り昭和のレトロな趣を残す商店街だが、2013年に都内で唯一中小企業庁選定の「がんばる商店街30選」に選ばれるなど、指折りの活気ある商店街だ。
仮面屋をオープンする前は、とにかく仕入れの心配をしていた。なにせ私は仮面がどこで作られ、どうやったら手に入るのか、何も知らなかった。唯一知っていることといえば、なんだかわからないが友達が仮面をつくっているということ。とはいえ、彼らだけに日々頑張ってもらうわけにもいかない。人間ができる作業には限界がある。そんな風に思っていたが、オープンしてからは、それらが杞憂だったのだとすぐにわかった。
理由は2つある。
仮面屋ですという顔で日々お店に座っていると
「仮面の値段はどうやって決めているんですか」
とよく聞かれる。一言で答えよう。
いくら私自身が「本のほうが欲しい」といったって、仮面屋としてあったほうがいい仮面というのはある。そういうものはもちろん、買い切りで仕入れをすることもある。それはどんなものかといえば、お店として偏りがないようにするためのものである。言い換えるならつまり「仮面屋らしさ」を担保するための仮面ということになるだろうか。
私が取り扱っているのは作家の仮面が主だが、もちろん例外もある。「仮面の引き取り」がそれだ。なんでも収集する人というのは古今東西いたもので、もちろん仮面も例外ではない。仮面コレクターが集めた仮面の情報が、日々お店に届く。コレクションというものは大概、処分に困るものだ。本人が存命の内はまだよいが、故人になったとたん、どんなきらびやかなコレクションも家族にとってはゴミの山となる。そういう仮面を「引き取ってくれませんか」という連絡がうちに届く。なぜなら、仮面を引き取ってくれる場所なんてほかにないからだ。うちのお店では基本的にどんな仮面でも引き取っている。人形や、絵画や、アクセサリーや呪物みたいなものも届く。もしかしたら万が一にも仮面かもしれないから、そういうものも喜んで引き取る。私は仮面というものがなんだかわかっていないので、ちょっとでも仮面かもしれないものはとりあえずもらっておくことにしている。そうしたものを仮面屋においておくと、不思議なことにだんだん「これも仮面なのかもしれないな…」という気になってくる。
私が営んでいるお店「仮面屋おもて」は、主に現代の作家が作った作品を扱うお店ということになっている。今をときめく新進気鋭の作家陣、もとい、私の友人たち。私の仮面屋生活は気のいい友達に支えられて成り立っている。「仮面作家」を名乗って仮面ばかり作っている変な人もいるが、おおむねほとんどの作家は別で仕事をしているか、仮面以外の作品も作るマルチアーティストだ。そのため仮面の素材も様々ある。絵画のようなキャンパス地にペイントしたものや、紙、焼き物、プラスチック、布やニット。変わったところだと植物や鰹節(!)まで、なんでもござれだ。アーティストにはそれぞれに得意な素材やテーマがあり、作品によって自分の世界をつくりあげていく。彼らは端的に言ってえらいと思う。ものをつくるひとは本当にえらい。私はそうした作家たちが魂を込めて作りだした作品たちを預かり、適当に店においているだけだ。